令和2年に制定された不動産の告知事項ガイドライン
令和2年(2020年)、国土交通省は不動産取引における
「告知事項」に関するガイドラインを制定しました。
このガイドラインの目的は、不動産取引におけるトラブルを未然に防ぎ、
売主や買主双方にとって透明性の高い取引を実現することです。
本記事では、ガイドラインの内容をわかりやすく解説し、具体的な事例を交えてご紹介します。
ガイドライン制定の背景
不動産取引において、物件の欠陥や環境問題、
心理的瑕疵(かし)などの「告知事項」を巡るトラブルは少なくありませんでした。
特に心理的瑕疵に関しては、法律的な定義が曖昧であるため、
どのような情報を開示すべきかが不明確でした。
このような背景を受け、令和2年に国土交通省が新たにガイドラインを策定。
不動産業者や売主がどのような事項を告知すべきかを明確化しました。
ガイドラインの主要ポイント
- 告知義務の明確化
- 売主や不動産業者が「取引において重要と考えられる事項」を告知する義務を負います。
- 告知事項には物理的な欠陥(雨漏り、白アリ被害など)だけでなく、近隣環境や心理的瑕疵が含まれます。
- 心理的瑕疵の範囲
- 自殺や事件などの事実が発生した場合、その内容を告知する必要があります。
- ガイドラインでは、事故の発生から時間が経過し、社会通念上「告知の必要がない」と判断される場合についても言及されています。
- 第三者への配慮
- 近隣住民や過去の所有者に関する情報については、プライバシー保護の観点から慎重に取り扱うことが求められます。
- 告知内容の具体例
- 告知が必要な場合: 物件内での死亡事故、隣接地の騒音問題、建物の構造的欠陥。
- 告知が不要な場合: 一般的な老朽化、通常の経年劣化。
具体的な事例
事例1: 心理的瑕疵の告知
ケース1: 中古マンションの一室で5年前に自殺が発生。
- 対応: ガイドラインに基づき、自殺の事実を買主に告知。
- ポイント: 時間の経過や事故の詳細を考慮し、心理的瑕疵が取引に影響を及ぼす可能性がある場合は開示が必要です。
ケース2: 高齢者の孤独死が発生した賃貸物件。
- 対応: 孤独死の発生状況や、発見までの期間などを告知。
- ポイント: 孤独死の場合も心理的瑕疵として扱われるため、買主が不安を感じる可能性がある内容は適切に開示する必要があります。
事例2: 近隣環境に関する告知
ケース: 物件の近隣にごみ処理施設が存在。
- 対応: ごみ処理施設の場所やそれに伴う臭気の可能性を告知。
- ポイント: 周辺環境が買主の生活に影響を及ぼす場合、詳細な説明が求められます。
事例3: 建物の物理的欠陥
ケース: 中古戸建て住宅で雨漏りが確認された。
- 対応: 雨漏りの具体的な状況と修繕履歴を開示。
- ポイント: 修繕が必要な場合、その内容も併せて説明することで信頼性が向上します。
契約後に告知事項が判明した場合の対応
契約後に告知事項が判明した場合、不動産取引において以下のような対応が必要となります。
- 速やかな報告
- 判明した事項を速やかに買主へ報告し、詳細を説明します。
- 契約解除や損害賠償の可能性
- 判明した内容が契約時の重要事項である場合、買主は契約の解除や損害賠償請求を行う権利を有する可能性があります。
- 例えば、物件の重大な欠陥や心理的瑕疵が未告知だった場合、買主にとって取引条件に重大な影響を及ぼすと判断されるケースが該当します。
- トラブル防止のための事前対応
- 契約前に可能な限り物件調査を徹底し、告知漏れを防ぐことが重要です。
- また、契約書に「告知事項が判明した場合の対応」についての条項を盛り込むことで、双方の責任範囲を明確化することが推奨されます。
告知事項がある物件を契約前に見抜く方法
- 不動産業者に詳細な質問をする
- 購入を検討している物件について、過去の事故や問題点、近隣環境などを具体的に質問します。
- 例: 「この物件で過去に事故や事件が発生したことはありますか?」
- 重要事項説明書を確認する
- 契約前に不動産業者が提供する「重要事項説明書」を必ず確認します。
- 告知義務がある情報はこの書類に記載されているため、不明点があればその場で確認します。
- 現地調査を行う
- 自分で物件を訪問し、建物や周辺環境をチェックします。
- 周辺住民に話を聞いて、近隣トラブルや環境に関する情報を収集するのも有効です。
- 専門家に依頼する
- 不動産鑑定士や建築士などの専門家に依頼し、物件の調査を行ってもらうことで、隠れた問題点を発見できる可能性があります。
- インターネットでの情報収集
- 物件やエリアに関する情報をインターネットで検索し、過去の事件やトラブルが報道されていないか確認します。
人の死に関わる告知事項の遡及期間
ガイドラインでは、人の死に関わる告知事項(自殺、事件、孤独死など)について、原則として事故や死亡が発生した時点から3年以内の事案を告知対象としています。ただし、以下の場合には例外的に3年以上経過した事案も告知が必要となる場合があります:
- 事故の内容が重大である場合
- 事件性が高く、社会的関心を集めた場合や、物件に対する心理的な影響が現在も強く残っていると判断される場合。
- 取引の相手が告知を求めた場合
- 買主が特定の期間を指定して過去の履歴を確認したいと希望した場合、不動産業者や売主はその情報を提供することが求められます。
- 事故の影響が物件に直接的に残っている場合
- 例えば、事件や事故の痕跡が建物内に明確に残っている場合や、周辺住民の間で話題になっている場合には、3年以上経過していても告知が求められることがあります。
まとめ
令和2年に制定された不動産の告知事項に関するガイドラインは、透明性の高い不動産取引を実現するための重要なルールです。告知事項の範囲を明確化することで、売主・買主間のトラブルを減らし、安心して取引を進められる環境を整備しています。
物件を購入する際には、ガイドラインに基づく告知事項の確認を怠らず、契約前にしっかりと調査を行うことが重要です。また、告知事項が契約後に判明した場合の対応方法についても理解し、トラブルを未然に防ぐ姿勢を持ちましょう。
不動産取引は人生の中でも大きな決断の一つです。このガイドラインを活用し、安全で信頼できる取引を実現しましょう。